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艶やかな着物を纏う素朴な木目~桐木目込み細工:箱長


訪問先: 東京・浅草 箱長
訪問日: 2016年01月31日
訪問者: 小柳知子 / (観光特産士3級、フードアナリスト), JTCO文化レポーター



箱長 浅草・オレンジ通り店
箱長 浅草・オレンジ通り店

かつては、娘が嫁ぐ際、親は嫁入り道具として一生使えるような鏡台や箪笥などの家具を買い揃えて持たせたものでした。今回は、そのような伝統の家具を製作しつつ、現代の生活や嗜好に合った新しい家具を生み出し続けている、明治7年創業・浅草「箱長」の三代目、宮田さまにお話をお伺いしました。



―桐木目込み細工とは初めて拝見しますが、珍しいですよね。いつ頃から制作されているのですか。

宮田さま(以下敬称略):
実は、桐指物に興味を持って頂くために、先代である2代目が「木目込み」を施したアレンジ品を作るようになったのが始まりです。木目込みとは、絵を描いて彫り、彫った所に絵の具の彩色の代わりに着物地を象嵌する技法のことです。

昔は嫁入り道具として、箪笥や鏡台なんていう桐指物を娘に持たせて嫁がせる、なんて風習がありましたが、少なくなったでしょう。また、マンションが増え、洋室の家が増え、家具も洋物が増えたため、和としてだけでやって行くのは難しい、時代に合わせて生活環境に伴った物を作って行かなければならない、と思いました。そうは言っても、指物に木目込みをするのには、勇気が要りました。商品になるか、これまでの技術に手を加えて良いのかと心配だったのです。
だから、桐木目込みというのは、日本でただ一軒、当社が考案した技法です。



―なるほど。それで珍しいわけですね。どんな風に作っていらっしゃいますか。


箱長 浅草・オレンジ通り店入り口
箱長 浅草・オレンジ通り店入り口

宮田:まず、桐工芸品には、「指物」という技法と「箱師」という技法の2種類があります。指物は、釘を一切使用しない、木と木を組んだ「組子」という技法、箱師は、ウツギの木を木釘にして使用する技法のことです。かつては、指物は指物、箱師は箱師でやっていましたが、その二種類を兼ねた技法が、今の箱長の技法になります。

そうしてできた桐指物に、「木目込み」の細工をしていきます。まず、絵柄の型を描きます。それを数種類の彫刻刀で彫ります。彫った箇所に着物生地をはめ込んだり、彩色を筆で行ったりします。着物生地の裏には和紙がついていて、和紙に糊を付けると和紙が濡れて膨らむのでそれを利用してはめ込んでいきます。

着物生地のどの絵柄を使うか、どの部分を表に出すか、着色の色の選び方、というのは職人の感性が出るので、同じ品物は存在しません。



―まさに職人さんの腕頼りなのですね。現在、職人さんはどの位いらっしゃるのですか。

宮田:職人が11~12人、職人以外の販売などを担当する従業員が5人です。こういう伝統技術というのは、後継ぎがいなくて外国人の職人さんが受け継ぐ例もありますが、今のところ当社にはおりません。

昔は、地方から集団就職して、職人の厳しい指導の下で技術を学んでいったものですが、今は木工関係の勉強をしに芸術大学や美術大学へ行って、大学で学んでから職人の下で学ぶケースが増えていますね。
勿論、工芸学校生も木工の勉強をして職人の仲間入りをするケースも増えています。



―新しい商品の販売開始後、どのような反応がありましたか。

宮田: 現在の技法が売れるようになり、伝統工芸品として認められるようになるまで、いろいろと苦労がありました。
まず、どのように世に出すか考え、京都で商売をするのが有効だと思い、京都に行きました。しかし、お店に置いていただくにも、ことごとく断られてしまいました。それは、東京と京都では、色遣いの好みが違うせいでもありました。例えば赤系の色でも、東京は紫色、京都では朱色という様に好まれる色が違います。そのため、色遣いを学びながら商品を作りました。何度も頭を下げてアタックし、どうにか置かせていただけるようになった3~4ケ月後に、ようやく売れるようになりました。すると、テレビや雑誌などにも紹介されるようになりました。


立派な桐箪笥
立派な桐箪笥

売れるようになるのは有難かったのですが、このままだと類似品が出ると思い、箱長の技法を特許申請しました。かなりの量の書類を提出し、10年かかってようやく特許が下りました。特許を申請したらすぐに取れる物だと思っていたため、あんなに何年もかかるとは思いませんでした。

ところが、特許が下りた後もまた問題が起きてしまいました。特許の登録証をいただいたので、コピーしてお店のしおりと併せて商品に入れて売ったところ、類似品を販売する人が出てきてしまいました。箱長のお客様から、ある時連絡が届いたんです。「○○(地域名)にもお店を出されたのですね」と。

そのお客様に写真を送ってもらい、類似品と確認したのでデータバンクに相談したところ、お店があると連絡いただいたところとは別の地域にある会社だということが分かりました。そう言えばその頃に、3~5人お店に来て、みんな違う物をそれぞれ買って行った事があり、それが類似品を作るためのサンプル品だったのか、と気がつきました。それで、すぐにその地域に飛んで行って、その会社を訴えました。彼らは「もう売りません、許してください」と言って会社をたたみました。するとなんと、ある別の団体が、その業者が販売していた類似品を買い取り、また販売していたんです。そこでまたその地域まで行き、団体に買取りをしたいと告げると、「もうしません、もう売りません」と言い、ようやく類似品の販売はなくなりました。

特許が下りてから3年間、このようなことで困りました。ありとあらゆる人が妨害をしてきました。「僕は、特許に関与した」とか、技術者ではない人までが、「自分がその商品に携わっていた」、など。そんな事もあって、品物にしおりを入れるのを止めざるを得ませんでした。

ものづくりの悩みは、類似品と正規品とを見比べた時、見た目が同じようならば、安い価格の方を買ってしまう傾向があることです。世の中には、ものづくりが好きだという人と、商売が好きな人がいます。お金を儲けたいと思う人は、真似をする人だと思います。一時でも爆発的に売れると、先が見えなくなってしまい、結局はそこで行き詰まってしまいます。何十年、何百年と続く会社は、コンスタントにコツコツと売っていると思います。



―なるほど。ここまで続けて来られたのには、大変なご苦労があったのですね。長く事業を続ける秘訣は何でしょうか。

宮田: お客さまの意見やアイディアを取り入れることで、箱長の商品に影響がありましたね。商品を通じて、人と人との繋がりができていくのです。お客さまの、買ってよかった、こんな物が欲しかった、嬉しかったという言葉が励みになります。そのためには、今後も技術の向上が必要だと思います。これからも、今までやってきたことを継続して、技術と人間性の向上をはかりたい。継続は力なり、ですね。



―どのようなお客さまが多いのでしょうか。

宮田: 8~9割が女性のお客さまですね。男性より女性の方が色、姿、形などの感性が豊かだと思います。また物を買う感性、そのために考える感性は女性の方が高いと思います。 当店の特有の感性が女性に合っているのだと思います。商品を理解して下さっている方は、リピーターになりますね。



―浅草のオレンジ通り店では「桐木目込み細工」の体験ができますね。

宮田: こちらは体験だけではなくて、教室もあります。初回・2回目は指定の作品を作りますが、3回目からは作りたい作品を決めて頂いて、金額もそれに応じたものになっていきます。

時間は2時間ほどで、時間内に終わりそうにないお子さんの場合は、工芸士が手伝い、時間内に終えられるようになっています。大人の方で時間内に終わらない場合は、持ち帰りはせず、次の教習で仕上げていただいています。
人に技術を伝えることで、工芸士が自分で勉強をし、技術を磨き、人と協力することで初めて自分の技術が向上するのです。



訪問を終えて:


とても詳しく、分かりやすい表現で教えていただけて、嬉しかったです。
色々ご苦労があって今がある、ということを強く仰っていました。
どんなこともそうですが、諦めなければ自分の信じた物事に、人が賛同して集まってきます。
小さな事でも向き合って、小さな事でも耳を傾ける事がすごく大切な事だと改めて感じました。
宮田様は、箱長のことだけでなく、浅草のイベント活動や、箱長など職人通りの“オレンジ通り”のイベント活動も行っておられ、講演会にも参加され、伝統工芸を広める活動を行っておられます。
私もこの取材で多くのことを宮田様から学びました。私もファンが増えるよう、アピールしていきたいと思います。
どうも有り難うございました。
(小柳知子 / (観光特産士3級、フードアナリスト), JTCO文化レポーター)



▼体験教室
事前予約制。材料は先方で準備頂けます。学校・団体様用と個人様用とがあります。
「桐木目込み細工」体験(個人様向け)
「桐木目込み細工」体験(学校・団体様向け)



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