NPO法人日本伝統文化振興機構は、日本の伝統文化の継承・創造・発展のための活動を行っております。

JTCO日本伝統文化振興機構
日本語 | English
JTCO: Japanese Traditional Culture Promotion & Development Organaization

快適な生活空間を造る~建具の小清水


訪問先: 神奈川県中郡二宮町「建具の小清水」
訪問日: 2014年10月29日


皆さまは、『建具』という言葉をご存知ですか?呼び方は『たてぐ』と言い空間を仕切る障子、襖、戸などの総称を指します。住まいの開閉をつかさどるもので、現存する最古の建具は法隆寺金堂の入り口にある板戸と言われています。


今回の取材では、建築業としては8代目、建具業としては5代大正末期に神奈川県中郡中井町から二宮町で創業されて3代目になる”建具の小清水”の現代表、小清水茂さんに建具の歴史や建具業についてお話しを伺いました。



美しさを求めて・・・大工から建具屋としての専門職へ
元々は大工と建具屋という区別はなく、大工が仕事の一部として建具屋の仕事をしていました。時代の変化とともに、依頼主の農家や商人からお客様を接待する客間などに、見た目にも美しい美術的要素を持つ建具を要求されるようになりました。そのような要求に応える技術を習得するために、一部の大工が仕事をする上で工夫をして徐々に大工と建具屋というように分業化していくようになりました。



写真1 間仕切欄間
写真1 間仕切欄間


生活に寄り添い進化を遂げる
建具は日本人の生活に寄り添う形で実用的にも芸術的にも進化を遂げてきました。細い格子が千本にも見えるという事から名づけられた千本格子や雨戸は防犯の役目を担っていました。一部の無双付きの雨戸は無双部分を動かすことにより、夏の暑さをしのぐ事が出来ました。間仕切欄間(写真1)は囲炉裏の煙を抜き空気の循環を良くするために考えられたといわれ、組子を重ねた絵柄も多様に進化していきました。猫間(ねこま)障子は元々障子の一部を猫の目ほどの空間に左右に開閉できるようにしていたものが、関東に入ると上下に幅広く開閉出来るものとなり、関東の猫間障子(写真2)と呼ばれるようになりました。関東の猫間障子に使用されている亀甲組子は特に高度な技術が必要とされ、製作に10日程費やしたとのことです。建具は代々の建具職人の創意工夫と技術の発達の賜物でもあるのです。


写真2 亀甲の関東の猫目障子(または、亀甲の雪見障子)
写真2 亀甲の関東の猫目障子



建具屋としての醍醐味
―いつ頃この仕事をはじめられたのですか。
建具屋の仕事は、15歳の頃からはじめました。家が代々建具屋だったので、物心つく頃から建具屋になる事は決まっていました。当時はおじの秀之助と職人3人がいて、皆が技を教えてくれたものです。新築の建具の依頼が多い時代でした。新築の建具となると、1件で100~150本の注文があり、ほとんど手作業でしたのでとても忙しかったです。多くの経験を重ね、技術的な事を習得するのには5年ほどかかりました。ただ、50年以上仕事をしていますが、今となってやっと一人前になれたのかなと思います。仕事を効率よく進められたり、木の性質を理解して木材を適材適所に配分できるようになって。加工の仕方であったり、デザインであったり、自分の考えを活かせる面白みを感じられるようにもなり、より一層仕事への張り合いや楽しみが出てきました。



こだわりの材料
―材料となる木はなにを使われていますか。
材料は、杉・けやき・ひのき・スプルスなどです。若い木であると反ったり曲がったりとくせが強いので、建具には最低でも樹齢100年以上の木を使うようにしています。以前は、杉をよく使っていました。杉の中でも、ピンク~黒色と産地によって色に差があります。人気のある杉は、寒冷地帯の秋田でとれる秋田杉が、『赤い木』とよばれ好まれて使われていました。建具屋としても、寒冷地帯の木は性質が大人しいので、くせが出にくく扱いやすいといった利点もあります。同じ木でも『あてっ木』といってくせが強く使えない木があるので、注意しています。現在は、大抵、アラスカのスプルスという木を建具屋専門店の材木屋から購入して使っています。



写真3 上が間を抜く前のほぞ 下が抜いた後のほぞ
写真3 上が間を抜く前のほぞ 下が抜いた後のほぞ(2段ほぞ)


大工も驚く 投げても壊れない建具
―仕事をされる上での、一番のこだわりを教えてください。
建具は、でっぱりのあるほぞと、ほぞを入れ結合させるためのほぞ穴の組み合わせで成り立っています。(写真3)結合は緩いと抜けやすく、固いと材料を傷つけてしまう恐れがあります。ほぞに関しては、ほぞの間を抜き取り、2段ほぞにすることでより嵌めあい 強度が増すように工夫しています。建具は見えないところにこそ、こだわりが強く出ます。大工が家を解体する時に2階から投げても、「小清水の建具は壊れない」と言われましたが、数十年以上は持つように丈夫に作っていますので。このように、建具を長持ちさせ、芸術的に魅せるためには、木材選び、ほぞ穴の位置と微妙な調整、木材の太さ等の繊細なバランスを保つことが重要なのです。その知識は長い年月をかけて経験として培われてきたものであり、当社の一番のこだわりです。長く持つように作ると修理などの依頼は減りますが、それよりもお客様に愛着を持って何十年も使って頂けることが第一と考えています。



建具により空間の変化を楽しんでほしい
―現在の販路また今後の販路拡大について教えてください。
販路は、建築屋、不動産、個人からの依頼が多いです。新築の建具や、建具の入れ替えなどです。大切にしているのは、アフターフォローです。建具の具合が悪くなってもすぐに対応できるようにしています。
現在、一番力をいれているのが、建具による空間造りの提案と販売です。建具は、部屋の中でも一番目立つ所にあるので、建具を変えるだけでも雰囲気がガラリと変わります。(写真4、写真5、共にページ下部に掲載)、建具を取り換えるのにも、同じものを取り換えるのではなく、違うものに取り換える事で空間の変化を楽しんで頂けたら嬉しいですね。また、木ならではの利点も多くあるのですよ。木は自然の空気清浄機なので、部屋の空気を取り込み、綺麗な空気にして吐き出してくれる。同じく障子紙も梅雨の時期は湿気を取り組む除湿機代わりになり、冬になると加湿器として水分を蒸発してくれます。このように建具や木の良さを知って頂き、生活に取り入れて頂けるように提案していきたいと考えております。
業界全体でも、建具の技術を応用して机や椅子など家具を製作したり、組子の照明スタンドを作って販売したりなど販路の拡大に注力しています。



訪問を終えて


「手間を惜しむな」建具の小清水の初代代表でもあり関東一と謳われた小清水半蔵が大切にしていた言葉です。仕事にひたむきで良いものを作ろうと真剣に取り組む気風が建具の小清水には代々引き継がれています。私も、ほぞなど見えない部分の建具のこだわりを知り、愛着をもって大切に使っていきたいと改めて思いました。これからも、小清水さんには素敵な建具を作って頂き、またその素晴らしさをより多くの方々に広めて頂けることを、願ってやみません。



写真4 取換え前の戸
写真4 取換え前の戸


写真5 取換え後の戸
写真5 取換え後の戸




建具の小清水
〒259-0123
神奈川県中郡二宮町二宮921
電話番号: 0463-71-1333
FAX: 0463-79-5209
E-mail: tategu.koshimizu@bk2.so-net.ne.jp
ホームページ  : http://tategu-koshimizu.jimdo.com/