マグロの話 その2: マグロの親戚
2018/07/30マグロの話 その2: マグロの親戚
にっぽんおさかな文化あれこれ 第七回
好評をいただいてております「食」に関するコラムシリーズ、第二弾の「魚」!「にっぽんおさかな文化あれこれ 第六回」では食用マグロの種類についてご紹介いたしました。第七回マグロの親戚「カツオ」と「カジキ」についてお話ししてまいります。
マグロの話 その2: マグロの親戚
カツオ
マグロの親戚といえば、まず「カツオ」が頭に浮かびます。そのカツオですが、『江戸前の魚たち その3「江戸の庶民の魚」』で述べましたように、マグロよりも古くから親しまれてきた魚のようです。
カツオは、マグロほど種類は多くはないものの、いくつかの種類が食用として利用されています。マグロはスズキ目>サバ亜目>サバ科>マグロ属の中で6~8種類あるのに対し、カツオはサバ科の中でホンカツオをはじめとした、次の4種類がカツオの属に分類されています。
1) カツオ(カツオ属)(別:ホンガツオ・マガツオ)
カツオといえば、日本ではほとんどこのホンカツオ・マガツオを指します。
世界でみると、温帯から熱帯にかけて回遊魚として広く分布していますが、日本においては早春沖縄から鹿児島・高知を北上するカツオは「初ガツオ」と呼ばれ、和歌山・静岡・千葉から宮城・北海道まで上り、秋になり宮城・千葉から南下するカツオは「戻りカツオ」と呼ばれ親しまれています。
大きさとしては2~3年で40~50cm位のものが多く食されますが、1mのカツオもあるようです。調理法は、生のさしみ・たたきといった直接の食べ方以外に、出汁用としてなど鰹節が利用されるため、ほとんどの日本人はカツオを口にしていることになります。
漁業技術の進歩した今でこそ、カツオは一般庶民の味覚として広く親しまれていますが、江戸時代では特に「初カツオ」は非常に珍重されていました。
徳川幕府が成熟期に入った18~19世紀、人気の歌舞伎役者であった中村歌右衛門は、日本橋魚河岸に入荷した十数本の初ガツオのうち一本を、なんと3両(約25万円)という大枚をはたいて買い、大部屋役者に振舞ったという逸話が残っています。
現代でも、「大間(おおま)マグロ」(大間町=本州最北端となる青森県下北半島の津軽海峡に面した漁業の町)など、お正月の本マグロの初セリの熱気は健在ですが、この江戸中・後期の江戸の人々の「初ガツオ」に対する熱狂的な思いは、これに通じるものがありますね。
2) ヒラソウダ・マルソウダ(ソウダガツオ属)
体長は50~60cmで、日本沿岸を回遊しているヒラソウダ・マルソウダは鮮度保持が難しいということから、地元での消費がほとんどです。
いずれも、鰹節と同様の製法による「宗田節(そうだぶし)」として加工され珍重されています。
「ヒラソウダ」は生食で非常に美味しいと言われていますが、残念ながら地元でしかと食べられないようです。
「マルソウダ」は生食には向かないようで、ほとんどが「宗田節」に加工されているようです。
3) スマ(スマ属)(別:スマガツオ・星カツオ・ヤイト)
主として西日本の沿岸を回遊し、体長は50cmから大きいものは1m位になり、脂があり非常に美味しいと言われていますが、ほとんどが地場消費となるため筆者はまだ一度も食べたことがありません。
本マグロの味・脂に似ているということで、本マグロに代わる魚としてこの「スマ」の養殖の 研究が行われていましたが、昨年ようやく成功したようです。これにより、マグロとカツオの関係はますます親密になり、改めて日本の水産業を発展させていくことになるでしょう。
「改めて」と書いたのは、マグロとカツオは近代以来の漁法や流通方法の技術革新により、広く食されるようになった経緯があるためです。
まず、19世紀後半から20世紀初めにかけて遠洋漁業が始まり、資源が格段に多く確保できるようになりました。そして、第2次世界大戦後の昭和25年には、「日本鰹鮪協同組合連合会」が設立され、戦後の日本水産業の復興を牽引してきました。具体的には、漁船の超低温冷凍設備を進化させ、鮮度の良いマグロ・カツオを食卓に提供することで、日本の伝統文化である刺身その他の和食を世界に広めることに貢献してきたのです。
ちょっと横道にそれましたが、別の機会に漁業の種類等をもう少し調べてみたいと思います。
4) ハガツオ(ハガツオ属) (別:キツネガツオ)
このカツオは北海道から九州の沿岸を回遊していますが、主として駿河湾以西の太平洋が産地で、一回の水揚量が少ないこと、また鮮度保持が難しいことから「ヒラソウダ」「スマ」同様ほとんどが産地消費となっています。
筆者もだいぶ昔に一度食べたことがありますが、よく憶えていません。しかし、魚好きな方達の間では刺身で食べるならこの「ハガツオ」が一番と言われているそうで、ぜひもう一度食べてみたいと思います。
昨年(平成29年)はホンカツオが不漁だったことから、東京の市場・店舗にも「ハガツオ」「スマ」が顔をだしたようですが、今年はどうなるのでしょう?
さて、今回はもう一つマグロの仲間についてお話します。
カジキマグロ
カジキマグロは皆さんご存知だと思います。名前に「マグロ」とついているため、マグロの一種だと思っている方が多いのではないでしょうか?
前回お話ししたマグロは、生物分類では、スズキ目>サバ亜目>サバ科>マグロ属 に分類されます。
先ほどお話ししたカツオは、マグロと同じサバ科で、種類によりカツオ属・ハガツオ属・スマ属・ソウダガツオ属 というように分かれていきます。
しかしながらカジキマグロは、マグロやカツオと同じスズキ目に属しているものの、その先は、カジキ亜目>マカジキ科・メカジキ科 という分類になり、マグロとは遠い親戚ということになります。
マグロに似て大型の回遊魚で、江戸時代からマグロと同じような漁法で漁獲され食されてきたことから、カジキではなくカジキマグロと呼ばれていたのではないでしょうか?
食用とされているカジキマグロには、大きく分けて次の2種類があります。
ア) メカジキ(メカジキ科メカジキ属) (別:メカ・カジキマグロ)
世界中の熱帯・温帯海域に生息する3~4m300kg級の大型魚で、嘴(くちばし)が長く眼が大きく腹びれないのが特徴です。
主としてムニエル・フライ等で食べるので、通年冷凍の切り身で店頭に並んでいますが、冬場東北~九州にかけて漁獲され生を調理することができます。ヨーロッパ・アメリカでは昔から一般家庭でステーキとかソテーといったシンプルな料理でメカジキを食しているそうです。
また、トローリング(クルーザーから餌〈ルアー〉をつけた釣糸を流して、大型魚を釣る漁法)の対象の魚としても有名です。
イ) マカジキ(マカジキ科マカジキ属)〈別:サワラ(金沢)〉
温帯・亜熱帯を回遊し日本では日本海・太平洋沿岸に生息し2~4m近くなる大型魚で、吻(ふん・上顎)が長いのが特徴です。
年配の方は記憶がおありだと思いますが、戦後の日本の成長期に主として関東・東北の温泉地の宴会料理での刺身に使われていたのが、この色変わりしにくいマカジキです。
現在スーパー・魚屋の店頭ではほとんど見ることができませんが、冬場の東北・関東で突ん棒(つきんぼ)という漁法(江戸時代から続く、船上から銛(もり)を投げてマグロやカジキなどの大型魚を獲る漁法)で漁獲されて、料亭などの高級店に卸されているようです。
20~30年位前、千葉で突ん棒で獲ったマカジキのハラモ(お腹の部分)を軽く炙ったものを食べたことがありますが、その程良い脂はなんとも言えずもう一度食べたい魚です。
なお、マカジキ科には、
●バショウカジキ(バショウカジキ属)
●クロカジキ(クロカジキ属) 〈別:クロカワ〉
●シロカジキ(シロカジキ属) 〈別:シロカワ〉
●フウライカジキ(フウライカジキ属)
などのカジキ類があり、世界の各地でステーキ・ソテー・ムニエルなどにして食されています。
マグロの遠い親戚まで触れましたが、これらはいずれも温帯・熱帯で回遊している魚たちです。そのためマグロと同じような漁法で漁獲され、超低温の冷凍設備を備えた船で輸送され、その後超低温冷凍倉庫で保管後、セリにかけられ、大物(マグロ)を扱う仲卸を経由するところから、食材としては同類として見られていると思います。
遠洋漁業の開始により、より豊富に資源を確保できるようになってから、普及漁として日本の食文化の発展に大きな影響を与えてきたマグロ・カツオ・カジキ類。最近本マグロなどで資源保護による漁獲制限が話題となっていますが、貴重な食材だったころのことを胸に留め、しっかり味わいながら美味しくいただければと思います。
【参考文献】
カラー完全版(2002)『さかなの目利き食通事典』講談社
厳選100種(2001)『[食材]魚 ハンドブック』池田書店
冨岡一成(2016)『江戸前魚食大全―日本人がとてつもなくうまい魚料理にたどりつくまで』草思社
【参考サイト】(2018年7月26日アクセス)
マグロ通 マグロ豆知識
サバ科 市場魚介類図鑑
カツオ ~列島を泳ぎまくる回遊魚
カツオ 東京都島しょ農林水産総合センター
江戸食文化紀行 江戸の美味探訪
スマ Wikipedia
スマはマグロの代用魚になりえる得るか?
日本かつお・まぐろ漁業協同組合
カツオの種類をどこまでしってる?カツオにも種類があるんですー!
カジキ亜目 市場魚介類図鑑
執筆者: 食いしん坊親爺TAKE