NPO法人日本伝統文化振興機構は、日本の伝統文化の継承・創造・発展のための活動を行っております。

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伝統文化「乙父のおひながゆ」

2014/10/16
伝統文化「乙父のおひながゆ」

群馬県の上野村というところに、「乙父のおひながゆ」という国に選択された無形民俗文化財があります。

当機構の「伝統文化館」でも、「乙父のおひながゆ」について詳しくご紹介させて頂いております。月遅れの桃の節句である4月3日に行われる行事ですが、起源は、この村に大昔、川に流され疲れ果て、たどり着いたお姫様を、お粥を炊いて介抱したのが始まりであると言い伝えられているそうです。

この「乙父のおひながゆ」ですが、JTCOに掲載されている伝統文化の中でもちょっとユニークな行事なのです。雛人形にお粥を備え、子供達もお粥を食べる、というような行事です。まだ肌寒い季節に川原に集まり、協力しあって石を積み上げ、お城と呼ばれる円形の囲いを作り夜明けと共にお城に、おひなさま、こたつ、カルタ、トランプ、副食物などを運び込み、お粥を食べた後、子どもたちは一日お城で仲良く楽しく過ごすのです。

雛祭りの日にあられやお寿司を食べるのは知っていましたが、お粥というのはとても珍しいですよね。そして、どこにいくでもなくただそこに座って、ただひたすら遊ぶという行事。本当にユニークです。

桃の節句とは、身のけがれを祓う災厄除けの行事です。お七夜やお宮参りと同じく女の子のすこやかな成長を願うものであり、お雛さまは、こどもの代わりに役を引き受けてくれるものなのです。我が子を思う気持ちを願う、どの時代でも親が願うことが大切に守られ表現されているている、あったかい伝統文化のように感じます。

昔から伝えられてきており、派手な演出や特別な儀式があるわけではなく、起源や由来も定かではありません。ですが、今日まで廃れずに、この行事が伝承されています。「伝わるべくして伝わった」ものであり、「地元の方に愛され支えられている」行事には間違いないのです。

現在、主役の子どもが少なくなってきており、お城作りも大人が手伝うようになってきているようです。さらには、現在受け継いで行っているのはこの群馬県の上野村の乙父だけなのです。

「伝統」というものは、伝える人や、主役である人がいなくなってしまったら、そこで歴史は止まってしまいます。それを食い止めるのができるのは、私たち自身なのでしょうが、簡単なことではありません。「自分がこの伝統を守る!」という気持ちや姿勢も大切ですが、まずは気軽に、身近な地域の伝統を知って、それに直接ふれあってみるようなことからはじめてみてはいかがでしょう。そうすることで、新たな発見・素敵な出会いがあるはずです。

もしかしたら、そんななにげない体験が、自分を「伝統」の後継者に育ててくれるかもしれません。


2014/10/16 kan