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「江戸しぐさ」をもう一度

2014/09/16
「江戸しぐさ」をもう一度

みなさんは、「おもいやり」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
私は、まだ記憶にも新しい、ブラジルで開催されたワールドカップでの日本人の清掃活動を思いだします。試合の勝ち負けに関係なく、次に試合観戦する人のことをおもいやっての行動は、世界でも高く評価されました。まさに日本人らしい、「おもいやり」のこもった行動であると思います。

「おもいやり」と言いますと、「江戸しぐさ」をご存知でしょうか。
「江戸しぐさ」というのは、江戸時代に町民たちの間で存在したものでして、いわば「無言のルール」や「粋な生き方」のようなものです。江戸しぐさには、相手のことを思った行動なども多く、まさに「おもいやり」の国だからこそ存在した精神ではないでしょうか。

例えば、もっとも有名であろう「傘かしげ」という江戸しぐさ。江戸時代の町並みは、住居が所せましと建ち並び、狭い道も多くありました。そこで、一般的であったルールがこの「傘かしげ」です。狭い路地を通る際に、相手に雨や雪が飛び散ってしまわないように、また、当時は紙製の傘が主流であったために、相手の傘を破かないように、という配慮とおもいやりが込められたしぐさです。
私は、このしぐさの事を知ってから、実生活に取り入れているのですが、傘を片手に携帯電話やスマートフォンばかり見て周りをまったく見ていない人の多さに驚かされると同時に、「おもいやり」のこころが死んでしまっているな、と悲しく思います。他愛ないことですし、「そのときたまたますれ違うだけの、見ず知らずの人間に気を使わなくても」と、反論されてしまいそうです。それでも、この「傘かしげ」のしぐさ、自分が勝手にやるだけでも、「ちょっといいことしたな」と、雨の日が少し楽しく過ごせると思います。

続いて、「こぶし腰浮かせ」というしぐさ。江戸の町では小さな船に大勢の人で乗り合わせる「渡し船」が、町民の足となっていました。この船に乗る際に、後から乗ってくる人のことを考えて行われていたのが、このしぐさです。やり方はいたって簡単で、腰をこぶし分うかせて席をつめあい、空席を作る、というものです。
時代は変わり、平成へ。電車が主流となっている世の中ですが、「おもいやり」とはかけ離れた、ルール違反を犯す人が多くみられます。この「こぶし腰浮かせ」の目線からですと、膝や床に置けばいい荷物を座席に置いていたり、人半分程度の微妙な空間をあけて座っていたりという状態が普通になっています。

いずれにしろ、結局は個人レベルでの意識の問題であり、江戸しぐさも強制するべきものではありません。
ですが、「忙しい、時間がない」と、嘆く現代人にこそ、このようなちょっとした行動は必要ではないでしょうか。少ないと感じている時間を数秒でも、自分以外の人に向けることで、人から見た自分の姿に気付く事があったり、口先だけでない本物の「おもいやり」のこころが、見えてくるはずです。

先に述べました、ワールドカップの清掃活動のことを思いますと、まだ日本人は「おもいやり」の精神を忘れてはいませんし、「おもいやり」をきちんとかたちにして表すことができています。そのような特別な場合のみでなく、ぜひ日常生活でも、もう一度、江戸しぐさが自然にできるような、本物の「おもいやり」が存在する日本になるように願っております。


2014/09/16 kan