NPO法人日本伝統文化振興機構は、日本の伝統文化の継承・創造・発展のための活動を行っております。

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伝統行事の行く先

2014/08/01
伝統行事の行く先

先日、目にした新聞の記事に、『季節の伝統行事を、家で行う回数』に、関する調査をまとめたものがありました。
それによると、『伝統行事を行う回数が減った人』が、【47%】もいる、という結果になっていました。理由も、「手間と時間がかかる」「子供が独立して行事を行う機会が無くなった」「費用がかかる」など、いかにも現代人というような理由でした。時間のないと嘆かれる現代では、「仕方ない」と感じてしまいますが、本当にそれで片づけてしまっていいのでしょうか。

お正月、お盆、節分、ひな祭りなど、行事という行事は毎年全て行っている私からみると、この調査の結果は、驚愕のものでした。
近所に家族や親戚がいる状況ではありますが、どの行事も数週間かけて必要なものを準備をしたり、日程を決めてゆっくりと時間をとって行っています。しかし、昨年の節分は、家族や親戚が集まることができず、私1人だけで豆まきをした、という少し寂しい思い出もあります。1人で行う伝統行事の味気なさを身を持って実感はしましたが、伝統行事というものは、人数や規模に関わらず行事そのものを行う、ということが大切なのではないかと思います。

例えば、お盆の本来の意味としては、「先祖や亡くなった人たちを、子孫である私たちが供養する」行事です。お盆と言えば、夏祭りや花火大会などの楽しい行事も目白押しで、どうしてもお盆という行事の『意味』を忘れてしまいがちではありますが、「先祖や自分に関わりを持つ人がいるからこそ、今の自分がいるのだ」という気持ちを持って、お仏壇やお墓の前で手を合わせたいものです。
お正月に行う初詣も、「一年の幸せを祈願する」という立派な意味をもつ行事です。初詣に行かない人の、「意味がない」「寒いから」「人が多いから」などという理由は、寂しすぎるように思えます。幸せを願う行事なのですから、「おいしいものをいっぱい食べたい」「素敵な人と出会いたい」など、自分にとっての幸せを願うだけでも、初詣という伝統行事は充分行われているのではないかと、私は思っています。

また、日本古来から伝わる伝統行事の回数が減る中、海外の伝統行事の参加率は高まっているそうです。
今や1年の中でも重大なイベントとなり、当たり前となった「クリスマス」「バレンタインデー」や、近年人気の出てきている「ハロウィン」など、確かに日本の伝統文化に比べたら「楽しい」「華やか」といったイメージのイベントが多い印象があります。また、海外の伝統行事は、企業による宣伝効果が大きいと言われています。確かに、各行事の時期が近付くと様々な企業がこぞって、これでもかというくらいにイベントとして、海外の伝統行事をアピールしています。あれだけ色んな場所で、行事に関することを目や耳にしていると、「やらなくてはいけない」という使命感に駆られるような気さえします。

とはいっても、もちろんこれらの行事にも、きちんとした『意味』はあります。
例えばバレンタインデーは、欧米では、「恋人や夫婦、友達、家族などがお互いにカードや花束、お菓子などを贈る」という、感謝の気持ちを現わす意味が大きな行事です。ですが、日本のバレンタインデーは、プレゼントするものはチョコレートがお決まりで、渡す相手は自分の好きな人、というのが一般的です。近年では、友だち同士でチョコレートを交換する「友チョコ」や、頑張る自分へのご褒美である「自分チョコ」など、チョコレート1つでも様々な「種類」があります。
そもそもなぜ、日本ではチョコレートなのかというと、とある商業施設がバレンタインデーの時期にチョコレートのセールを行ったことがきっかけとされています。本来の意味とは全く関係のない事実です。

やはり、本来の意味を知っているのと知らないのでは、行事に関する意識も相当変わってくるように思えます。「時間がない」「手間がかかる」というのは、怠惰な気持ちからの言い訳なのではないでしょうか。
お正月におせちを作るのは難しくてもお餅を食べてお正月気分を味覚と気分で味わったり、節分に豆まきは出来なくても年の数だけの豆を食べるだけでも、伝統行事は形になり、自分で触れ、楽しむことができるのではないでしょうか。こうして、少しずつでもいいので、また伝統行事を行う人が増えていけばいいな、と願います。


(参照:日経新聞 2014年3月3日 / 石鍋仁美)

2014/08/01 kan