JTCOメルマガ『風物使』
2012年03月08日 配信「白鳥が冬と去る」~ 季節の使い・JTCO『風物使』雨水・啓蟄号
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「白鳥が冬と去る」~ 季節の使い・JTCO『風物使』雨水・啓蟄号
vol.34 2012年03月08日発行(旧暦 02月16日・睦月)
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拝啓
雪の降る日もありながら、コハクチョウの北帰行のニュースも流れる今日こ
の頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。長引く寒さが渡り鳥をも引き止め
ていましたが、もう春も遠くはなさそうです。
+‥‥+ 2012年雨水・啓蟄号 目次 +‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
・今号のテーマ……… 和合の象徴:『二枚貝』
・季節の行事………… 高雄山 火渡り祭り [東京都八王子市]
・JTCOからのお知らせ 伝統工芸(4件)・伝統文化(4件)新規掲載
・編集後記
,:* 今 号 の テ ー マ ━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥…
【生物】和合の象徴:『二枚貝』
「荒磯の波にたゆたふうつせ貝 ひもせそなふる時もありけり」
(中島広足『うつせ貝』)
(訳:荒波が打ち寄せる磯の波間に漂う貝殻のような私たちではあるが、荒
波にも二枚の貝殻が離れ離れにならないことがあるように、こうしてふたり
が一緒にいられるときもあるのだね。)
先週のひな祭りに、女の子のいるご家庭ではハマグリのお吸い物をいただい
た方もいらっしゃるかと思います。地方によって、シジミなどをいただくと
ころもあるようですが、なぜひな祭りに貝類をいただくのでしょうか。
ハマグリや寒シジミなどの貝類は、ちょうど今頃が身が引き締まっておいし
い時期です。旧暦の3月2日は大潮にあたり、正午には潮が引いて海底が地上
に出てきますので、このときに潮干狩りをして、翌日捕った貝をお供えした
ようです。江戸では、東京湾で捕れたハマグリをお供えするのが慣わしでし
た。
古代には対になる貝殻以外とは決して合わない特性を利用して、「貝覆い」
の遊びも生まれました。これは対になる貝殻の片方を探し当てる単純な遊び
でした。これが次第に、持ち寄った貝殻の美しさを比べ合ったり、いろいろ
な貝に歌を添えて競い合う「貝合せ」や、貝殻の内側に華やかな絵や歌を描
いて上の句と下の句を合わせる、「歌貝」に発展していきました。貝類にち
なんだ秀歌選として、『三十六貝歌合』(1690年)、『繪本貝歌仙』(1748
年)が残されており、古代以来、日本人が貝によせた思いをうかがい知るこ
とができます。
江戸時代の武家社会では、夫婦和合と女性の貞潔を願って、金箔に蒔絵で風
物や公家の男女をあしらった華やかな360個(=旧暦の1年の日数)の合せ蛤
を納めた「貝桶」が、婚礼調度としてもっとも重要なものとされました(な
お、この頃には、「貝覆い」の遊びは「貝合わせ」と呼ばれようになってい
たようです)。一対の豪華な八角形の貝桶に納められた貝は、婚礼行列の先
頭で運ばれ、婚家に到着するとまず、家老などの重臣が新婦側から婚家に貝
桶を引き渡す「貝桶渡し」の儀式が真っ先に行われました。貝は女性の幸せ
にとってこれほどまでに重要な意味を持っていたのですね。
「わが恋は三島の浦のうつせ貝 むなしくなりて名をぞわづらふ」
(大祝 鶴(おおほうり・つる=鶴姫)時世の句)
(訳:戦で名を立てても、あなたを喪った今、私の心は三島の浦に打ち寄せ
られた貝殻のようにむなしいばかりです。)
これは、戦国時代の16世紀、大三島の神職・大祝氏の陣代として16歳で出陣
した鶴姫が、先に討ち死にした恋人の越智(おち)安成を追って18歳で海に
消える前に詠んだ歌です。彼女は敵軍の大内氏を撃破しますが、戦での手柄
は身の片方を喪った彼女の心を埋めるものではありませんでした。彼女であ
れば家督を継ぐこともできたのでしょうが、恋人の眠る海に入ることを選ん
だのは、彼女が歳若かったからなのでしょうか、それとも女性だったからな
のでしょうか。
家族や夫婦の関係が多様化したいま、男女ともに幸せの形は人それぞれです。
ですが、二枚の貝のように唯一無二の相手と過ごしたいというのは今も昔も
変わらない人の情なのではないでしょうか。旬のおいしい貝をいただきなが
ら、昔の人が貝に託した願いに思いを馳せてみるのもよいのではないかと思
います。
,:* 季 節 の 行 事 ━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥……
高尾山 火渡り祭り [東京都八王子市](3/11)
http://www.takaosan.or.jp/hiwatari/
世界平和、無病息災などを願って、高尾山の修験者が炎の上を渡ります。こ
れを御護摩(浄火により災厄を祓う火の行)と言います。信徒の参加もあり
ます。
,:* JTCOからのお知らせ ━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥……
『伝統工芸館』に新規記事が追加されました。
伝統工芸:喜如嘉の芭蕉布、若狭めのう細工、若狭塗、若狭和紙
http://www.jtco.or.jp/japanese-crafts/index.html
伝統文化:鬼来迎、塩原の大山供養田植、比婆荒神神楽、綾子踊
http://www.jtco.or.jp/japanese-culture/index.html
,:* 編 集 後 記 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥……
『風物使』第34号(2012年雨水・啓蟄号)を最後までお読みくださったみな
さま、誠にありがとうございました。
長かった今年の冬も、日本ではそろそろ出口が見えてきた頃ですが、どうも
今年は世界的におかしな冬だったようです。インドでは雪など降るはずもな
い地方で積雪したり、逆に通常厳寒のアメリカの東海岸では雪がすぐに溶け
てしまったと聞きました。気候変動は地球の営みとはいえ、人間の責任につ
いても考え直さなければなりませんね。
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【季節の使い・JTCO『風物使』】
発 行 日:月2回発行(二十四節気ごと)
発行開始日:2010年6月18日
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〒105-0002 東京都港区愛宕1-3-2-1401
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All rights reserved.
「白鳥が冬と去る」~ 季節の使い・JTCO『風物使』雨水・啓蟄号
vol.34 2012年03月08日発行(旧暦 02月16日・睦月)
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ていましたが、もう春も遠くはなさそうです。
+‥‥+ 2012年雨水・啓蟄号 目次 +‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
・今号のテーマ……… 和合の象徴:『二枚貝』
・季節の行事………… 高雄山 火渡り祭り [東京都八王子市]
・JTCOからのお知らせ 伝統工芸(4件)・伝統文化(4件)新規掲載
・編集後記
,:* 今 号 の テ ー マ ━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥…
【生物】和合の象徴:『二枚貝』
「荒磯の波にたゆたふうつせ貝 ひもせそなふる時もありけり」
(中島広足『うつせ貝』)
(訳:荒波が打ち寄せる磯の波間に漂う貝殻のような私たちではあるが、荒
波にも二枚の貝殻が離れ離れにならないことがあるように、こうしてふたり
が一緒にいられるときもあるのだね。)
先週のひな祭りに、女の子のいるご家庭ではハマグリのお吸い物をいただい
た方もいらっしゃるかと思います。地方によって、シジミなどをいただくと
ころもあるようですが、なぜひな祭りに貝類をいただくのでしょうか。
ハマグリや寒シジミなどの貝類は、ちょうど今頃が身が引き締まっておいし
い時期です。旧暦の3月2日は大潮にあたり、正午には潮が引いて海底が地上
に出てきますので、このときに潮干狩りをして、翌日捕った貝をお供えした
ようです。江戸では、東京湾で捕れたハマグリをお供えするのが慣わしでし
た。
古代には対になる貝殻以外とは決して合わない特性を利用して、「貝覆い」
の遊びも生まれました。これは対になる貝殻の片方を探し当てる単純な遊び
でした。これが次第に、持ち寄った貝殻の美しさを比べ合ったり、いろいろ
な貝に歌を添えて競い合う「貝合せ」や、貝殻の内側に華やかな絵や歌を描
いて上の句と下の句を合わせる、「歌貝」に発展していきました。貝類にち
なんだ秀歌選として、『三十六貝歌合』(1690年)、『繪本貝歌仙』(1748
年)が残されており、古代以来、日本人が貝によせた思いをうかがい知るこ
とができます。
江戸時代の武家社会では、夫婦和合と女性の貞潔を願って、金箔に蒔絵で風
物や公家の男女をあしらった華やかな360個(=旧暦の1年の日数)の合せ蛤
を納めた「貝桶」が、婚礼調度としてもっとも重要なものとされました(な
お、この頃には、「貝覆い」の遊びは「貝合わせ」と呼ばれようになってい
たようです)。一対の豪華な八角形の貝桶に納められた貝は、婚礼行列の先
頭で運ばれ、婚家に到着するとまず、家老などの重臣が新婦側から婚家に貝
桶を引き渡す「貝桶渡し」の儀式が真っ先に行われました。貝は女性の幸せ
にとってこれほどまでに重要な意味を持っていたのですね。
「わが恋は三島の浦のうつせ貝 むなしくなりて名をぞわづらふ」
(大祝 鶴(おおほうり・つる=鶴姫)時世の句)
(訳:戦で名を立てても、あなたを喪った今、私の心は三島の浦に打ち寄せ
られた貝殻のようにむなしいばかりです。)
これは、戦国時代の16世紀、大三島の神職・大祝氏の陣代として16歳で出陣
した鶴姫が、先に討ち死にした恋人の越智(おち)安成を追って18歳で海に
消える前に詠んだ歌です。彼女は敵軍の大内氏を撃破しますが、戦での手柄
は身の片方を喪った彼女の心を埋めるものではありませんでした。彼女であ
れば家督を継ぐこともできたのでしょうが、恋人の眠る海に入ることを選ん
だのは、彼女が歳若かったからなのでしょうか、それとも女性だったからな
のでしょうか。
家族や夫婦の関係が多様化したいま、男女ともに幸せの形は人それぞれです。
ですが、二枚の貝のように唯一無二の相手と過ごしたいというのは今も昔も
変わらない人の情なのではないでしょうか。旬のおいしい貝をいただきなが
ら、昔の人が貝に託した願いに思いを馳せてみるのもよいのではないかと思
います。
,:* 季 節 の 行 事 ━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥……
高尾山 火渡り祭り [東京都八王子市](3/11)
http://www.takaosan.or.jp/hiwatari/
世界平和、無病息災などを願って、高尾山の修験者が炎の上を渡ります。こ
れを御護摩(浄火により災厄を祓う火の行)と言います。信徒の参加もあり
ます。
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『伝統工芸館』に新規記事が追加されました。
伝統工芸:喜如嘉の芭蕉布、若狭めのう細工、若狭塗、若狭和紙
http://www.jtco.or.jp/japanese-crafts/index.html
伝統文化:鬼来迎、塩原の大山供養田植、比婆荒神神楽、綾子踊
http://www.jtco.or.jp/japanese-culture/index.html
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『風物使』第34号(2012年雨水・啓蟄号)を最後までお読みくださったみな
さま、誠にありがとうございました。
長かった今年の冬も、日本ではそろそろ出口が見えてきた頃ですが、どうも
今年は世界的におかしな冬だったようです。インドでは雪など降るはずもな
い地方で積雪したり、逆に通常厳寒のアメリカの東海岸では雪がすぐに溶け
てしまったと聞きました。気候変動は地球の営みとはいえ、人間の責任につ
いても考え直さなければなりませんね。
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【季節の使い・JTCO『風物使』】
発 行 日:月2回発行(二十四節気ごと)
発行開始日:2010年6月18日
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