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人助けのこころ

2014/07/10
人助けのこころ


平安京で路頭に迷った病人や孤児らの救済施設「施薬(せやく)院」「悲田(ひでん)院」の名が記された平安前期(9世紀前半)の木簡が、文献上で施設があったとされる付近の京都市南区の平安京跡(左京九条三坊十町)から見つかった。平安時代の両施設に関して記述された木簡が出土するのは初めて。諸国から集められた薬などの荷札の他、「死亡報告書」とも言える木簡もあり、平安時代の困窮した市民の救済活動を表す史料だ。

引用 ― 平安京跡:「施薬院」木簡が出土 窮民救済活動示す(平安京跡:「施薬院」木簡が出土 窮民救済活動示す)




日本人が世界へ誇れる「精神」の一つに、「人助けのこころ」があるように思います。工芸品のように、姿かたちはありませんが、昔から伝統として受け継がれてきている部分ではないでしょうか。
何千年も前の平安時代にも、それは存在していたのだと、この記事を読んで感銘を受けました。

最近、若者の公共の場でのマナー違反などが騒がれています。確かに、「伝統的な日本人の精神」からは、考えられないような事例もあります。しかし、本当に全ての若者のマナーが悪いと言い切れるでしょうか。
先日、郵便局の前で、1人の女性がポストに投函するための郵便物を、落としてしまって道路にばらまいていました。目の前でそれを目撃した私は、郵便物を拾うのを手伝いました。しかし、何人もの人が行きかう中、他には誰も手を貸してくれませんでした。「やはり、助け合いの精神というものは薄れてしまったのかな」と思いながら手紙を拾っていると、自転車で通りかかった一人の男性が、笑顔で、「大丈夫ですか」と声をかけながら、拾うのを手伝ってくださいました。
私は、目の前で起こった出来事であったために、反射的に手伝っていた部分があったのかもしれませんが、この男性は、わざわざ自転車を止めて、手伝ってくださいました。おそらく、困っている人を見て、助けようと思ったからでしょう。「人助けのこころ」は、このようなことをいうのではないのかと、気付かされた出来事でした。

「困った人がいたら助けよう」とあたりまえのように言われていますが、実際、自分はどれだけ純粋な「人助けのこころ」で、それを実行できていましょうか。「やるよりやらないほうがいい」という意見もきっとありますが、「なんとなく」でやっていても、それは「人助けのこころ」といえるのでしょうか。
「こころをこめて人助け」と、頭の中で思っても、実行するのが意外と難しいものです。ですが、行動そのものよりも、こころの部分が大事なもののように思えます。

そもそも、施薬院とは、光明皇后が奈良時代に創設された、いわば福祉施設のはしりのようなものです。
当時の平安京といえば、約4万体もの亡骸が市街に散乱し、病人たちは見捨てられ川へ捨てられる、人身売買が行われるなど、まさに地獄絵図のような光景が、広がっていたそうです。庶民は生活らしい生活を送るのも、やっとだったのではないでしょうか。
そんな、誰もが「生」に必死にしがみついている世の中で、この施薬院は、まさに天国のような施設ではなかったのではないでしょうか。
慈悲の思想に基づき、薬草などを貧民に施していた施薬院は、まさに「こころのこもった人助け」を行っていたのではないでしょうか。

出土品から、もう一度日本人の「精神」を見つめ直すと同時に、自分の行いを考えてみるのもいいかもしれません。


2014/07/10 kan