蚕当計
2011/11/04蚕当計
2011/10/30 日本経済新聞「科学と技術」から
養蚕が日本に伝わったのは弥生時代といわれる。江戸時代になると生糸や絹織物の需要が増えて進展した。これを支えたのが飼育技術の開発や蚕種の改良だ。国内有数の産地だった伊達地方(福島県伊達市)の養蚕農家、中村善右衛門が考案した「蚕当計」は、蚕を飼育する蚕室の温度管理に使われた道具だ。1849年、善右衛門執筆の手引書とともに売りだされた。
善右衛門は風邪をこじらせて西洋医学の医者を受診したときに体温計に出合った。これをヒントに蚕当計を作った。現存品の目盛りはカ氏20度(セ氏零下約7度)からカ氏100度(セ氏約38度)まで。「緩蚕」「小食」などと表示し、卵から繭までの飼育日数に応じた適温も示した。日数が28日と短い「急蚕」飼育の場合は、温度をカ氏80度(セ氏約27度)に保てばよい。
農家は経験上、温度が飼育期間と繭の品質を左右すると知っていたが、温度管理は勘に頼った。伊達市教育委員会の八巻哲朗氏は「蚕当計は科学的な養蚕を可能にした。明治以降も売れた」と話す。
(2011/11/4 oikawa)