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NPO法人日本伝統文化振興機構は、日本の伝統文化の継承・創造・発展のための活動を行っております。
伝統工芸館 カテゴリ

総数:400件


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総数:400件

伝統工芸品鹿児島県

鹿児島県
工芸品の分類 金工品
工芸品名 薩摩錫器

主要製造地域:鹿児島県




《特徴》
薩摩錫器の伝統的な魅力は、梨子地肌の味わい深さにありますが、その出来の良し悪しは鋳込みと言う初期の段階で決まります。

溶かした錫を形に流し込む時に出来る金属の結晶組織が器の肌となり、後の工程では修正できないからです。伝統工芸士は息を止め、ゆっくりと錫を流し込みます。

作業に打ち込む姿を見ていると、腕と胸に虫に刺されたような跡が残っているのに気付きます。これは、解けた錫の湯玉が飛び散った火傷の痕です。

錫器は芸術(造形と表面仕上)、製造技術の鋳物理論、旋盤切削(機械加工)、エッチング(科学)、印刷技術、漆(絵具)で作り上げる工芸品です。


[ 鹿児島県伝統的工芸品指定 ]
提供 : 大辻朝日堂 様

素材
製法・工法 【1】 融解
錫塊をガスコンロ・鉄鍋にて融解します。

【2】 鋳型作製
外型・中子(鋳型)芯を合わせ、溶けた湯(錫)を鋳口、湯口から注ぎ、固まったら取り出します。薩摩の伝統的な鋳型作りは、まず製品の雛型を作ります。
乾燥していない生木(削りやすい)をロクロ(横型旋盤)に取り付け、削りだし、次に厚紙で中心部位の形をとるのです。この紙型はその製品の外型の以後の大切な型紙(ゲージ)となります。

【3】 荒削り
旋盤の嵌木に取り付け、内外の偏芯や凹凸黒皮を削ります。
鹿児島は横型旋盤で職人は平行に立ち、荒鉋は胸腋に挟み鉋台を支点に削ります。 荒鉋は1本、仕上鉋5、6本と小さな仕上鉋5、6本これを駆使して削ります。鉋は使用する職人が鍛冶を行い、研ぎあげます。切削面に斜めに当て切り、刺身を引き切るような削りかたで美しいのです。ゆえに堪えず研ぎあげ、常に刃面を鏡面に保っています。
竪型旋盤に比較し、動作範囲が広く長い物や、小物から大物まで削る事が出来ます。

【4】 中削り
仕上鉋でより形を整えます。

【5】 刻印
製品の底裏部分に銘を打刻します。
刻印は外側を削った時点で底裏に打ちます。理由は当金を必要とするため、付いた傷はつないだり、完成したあとからでは受痕を削り取れないからです。

【6】 接合[半田付け]
上記により出来たそれぞれの部位を半田付します。錫器は半田付けで繋いで作ります。

【7】 削り
表面を鏡面仕上に削りあげます。表面を鏡面に仕上げます。エッチング後は削り加工出来ないので手は抜けない品質が決まる重要な所です。

【8】 絵付け
希硝酸に耐える塗料、レジストインクで描画します。3次曲面や筆の届かない所までファックスやメールで絵柄、文字、ロゴマーク、紋、等原稿を注文下されば写植出来ます。

【9】 艶消し[エッチング]
調整された希硝酸に浸し所定時間、梨子地の肌を作ります。希硝酸濃度、温度調整を行い液に浸します。 所定の梨子地肌が出来るのを確認し、炭酸水素ナトリウム水溶液(重曹)に浸します(中和)

【10】 仕上げ
ろくろに取り付け最後の仕上げを行ないます。艶消し商品は、ここで完成となります。

【11】 いぶし
黒漆にさらに顔料をまぜ均等に塗り上げ、むろに入れ乾燥(重合)させます。

【12】 いぶし仕上げ(黒仕上)
ろくろに取り付け磨き最後の仕上げを行ないます。いぶし製品の完成です。
歴史 【錫器の歴史】
漢字は中国で生まれました。
錫の金へんをはずすと、「易」ですよね。易は白いという意味があるのだそうです。金色・銀色・銅はあかがね、といわれますが錫色がないのは寂しいですね。

高温では酸化するものの常温では酸化しにくく、化合物も色が無いのが珍しいと思います。硬くて緻密なプラチナ・ステンレスは磨けば鏡のように映りますがやはり硬くて冷たい印象です。それに比べて、錫の反射はやわらかい銀白でない白色で、優しい暖かさを感じさせます。

【薩摩錫器の歴史】
薩摩(鹿児島市)で錫器を作り始めたのは、鹿児島市より南に20キロメートル谷山の奥、錫山に明暦元年に八木主水生元信によって錫鉱脈が発見され元禄14年薩摩藩の当主島津光久が幕府より採掘許可を得る事に依り薩摩の錫として世に出たものです。

薩摩で錫器を作りだしたのは、谷山鉱山が生産を増した文化十年(1813年)以後であろうと思われます。
江戸時代の代表的な紀行文学と言われた橘 南谿の「西遊記」は、「遠い薩摩の国の城下には陶製の徳利はなく、すべて錫製の徳利だった。」という意味の事を書き留めています。

京都に中国より齎された錫器製造は、大阪で発展し産地となりました。 浪華錫器の誕生で、他の地に在るのは分派であり、鹿児島の薩摩錫器とは製法が異なります。