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ソバの実はどこから来たの?

2016/08/30
ソバの実はどこから来たの?

にっぽんソバ談義 第一回


今回より、長年フードビジネスに携わってきたJTCO会員による、知っているようで知らなかった「食」に関するコラムをシリーズでお届けいたします。おなじみの食材も、ちょっと違った視点から楽しめるようになること請け合いです。どうぞご期待ください!


 暦の上ではすでに秋。もうすぐ、そば好きが待ちに待った新そば*1の季節になりますね。初夏の頃から畑一面真っ白に咲いている可憐なソバの花を見られた方もいらっしゃるでしょう。ソバはタデ科ソバ属の一年生草本で、種を播いてから開花を経て75日前後で黒褐色で5ミリ位の三角稜のソバの実(種子)となります。

ソバの伝来は縄文時代?

 このソバの種子が小麦やスイカの種子とともに、静岡県の登呂遺跡から発見されました。登呂遺跡は弥生時代後期のものなので、少なくとも2,000年以上前には日本に伝来していることになります。最近の調査・研究では、弥生後期以前の縄文時代(15,000年位前~2,500年位前)から弥生時代初期とされる高知県・島根県・埼玉県の遺跡・地層からも、ソバの花粉・種子が発見されたとの記録があるようで、縄文から弥生にかけて日本に伝来し、各地で栽培されていた可能性があります。

ソバの伝来ルート

 さて、そのソバ(普通種)の原産地ですが、北はバイカル湖から南は雲南省、東はアムール川上流から西はチベット・インド北部と諸説ありますが、現在では四川省・雲南省辺りの中国南部説が有力のようです。日本への伝来のルートについてもいろいろな説があり、

a) 朝鮮半島から対馬へ
b) シベリアから北日本へ
c) 中国から直接どこも経由せず九州へ 

などが考えられていますが、原産地が中国南部ということであれば、稲の伝来と同じルートを辿るc)の、直接九州というルートではないかと推測されます。

ソバはなぜ主食になれなかった?

 日本の記録文献での初出は、『続日本紀』に西暦722年(養老6年)天正天皇の詔勅の中で救荒作物としてソバの栽培を勧めているとの記録があり、この頃にはソバは栽培が行われていたのは確実だと思います。この文献以前の文献にはソバの記述はなく、この後も西暦723年(養老7年)と839年(承知6年)にも、同様にソバ栽培を奨励する詔勅があったと記載されている文献があります。

 いずれにしても、縄文・弥生時代に日本に伝来して以来、西暦722年に詔勅で栽培を奨励されていながら、ソバはあまり食されていなかったと思われます。その理由としては、製粉(脱皮)技術がほとんどなかった時代に、硬い黒褐色の殻を剥くのが大変で調理方法があまりなかったとか、反あたりの収穫量が少なかったことが考えられます。『日本書紀』等当時の文献でも、ソバが五穀(主要な穀物)*2に含まれていなかったということは、「蕎麦切り」(現在の麺としての蕎麦)という調理方法が確立されるまでは、救荒作物との位置付けで日常の食糧・食品としてあまり食されてはいなかったと推測できます。

 次回は、この「蕎麦切り」に関するコラムをお届けいたします。お楽しみに!

次号を読む

*1:夏収穫する「夏そば」と秋収穫する「秋そば」があり、それぞれ「夏新」「秋新」と言いますが、香り・味・色目は秋新の方が優れていると評価され、一般的に「新そば」と言えば「秋新」を指すようになりました。
*2:米・麦・粟・豆・キビ(又はヒエ) 時代によって若干変わってきました。


▼参考文献 / 参考サイト(2016年8月23日参照):
・新島繁(1990)『新撰蕎麦辞典』食品出版社.
Wikipedia フリー百科事典,「ソバ」
食の雑学,「そば(蕎麦)の原産地と日本への伝来」
蕎麦の泉,「蕎麦の伝来」



執筆者: 食いしん坊親爺TAKE

 もうすぐ古稀を迎える食いしん坊親爺TAKEです。

 食品の製造・販売、飲食店経営、食品の開発・輸出、2次加工食品材料の製造・販売、水産物のインターネット販売などの仕事に、30年以上携わってきました。
そして、美味しいお店を探したり、旬の食材を求めたり、その歴史を調べたりと、あちこち歩き回ってきました。

 人生のラストステージを迎え、昔のことを思い出しながら資料を探したり、目的の処を訪ねたり、詳しい方からお話を聞いたりしながら、大好きな食文化に関するコラムを書けることの幸せを感じています。

 美味しい・不味いは他の人が決めるのではなく(行列が出来ている・品切れになっているなどに惑わされず)、一人ひとりが自身の経験・五感などから、素材・調理・価格・清潔度・サービスなどをベースに自身の物差しをもって判断することが、食文化を発展させると思っています。

 このコラムがその判断の参考となり、おおいに食を楽しんでいただければ幸いです。